限界突破のシンフォニックが描き出す、デスコアの極北と漆黒の海

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by うぃる (@will) | 公開: 2026.03.19 (更新: 2026.03.19) | ASIN: B0F8RW9S1J
デスコア、デスメタルという言葉を聞いて何を思い浮かべる?
デス系の音楽で涙する経験なんて今までにあっただろうか...?

前作『Pain Remains』から3年、現代デスコア・シーンの絶対的王者として君臨するLorna Shoreの5thアルバム『I Feel the Everblack Festering Within Me』。2025年9月にリリースされた本作は、彼らが確立したシンフォニック・デスコアというフォーマットを限界まで押し広げた、トータル66分にも及ぶ超大作だ。タイトルが示す通り、内側で膿んでいく永遠の暗闇を音源化したかのような、重苦しくも壮大な世界観が展開されている。

90年代から00年代にかけて、フロリダやニューヨークのアンダーグラウンド・シーンから這い出てきたデスメタルや、Slipknotの初期の混沌、そしてGuttural Secreteのようなブルータル・デスメタルの肉体的な狂気にリアルタイムで当てられてきた自分にとって、今のエクストリーム・ミュージックの進化には本当に驚かされる。かつての極悪ミュージックといえば、薄暗い地下のクラブで生身の人間が楽器をどれだけ残虐に鳴らすか、その生々しい殺傷能力だけが勝負だった。それが今や、Lorna Shoreが鳴らす音は、まるでハリウッドのダーク・ファンタジー映画や終末もののSF大作みたいな圧倒的なスケール感を持っているんだよね。

プロデューサーに再びJosh Schroederを迎えた今作の音像は、良くも悪くも「これぞいまのLorna Shore」という過剰なまでの情報量で空間が埋め尽くされている。荘厳なクワイアと分厚いオーケストレーションが天井を覆い尽くし、その下でAustin Archeyの正確無比なブラストビートとAdam DeMiccoの流麗かつ暴力的なギターが嵐のように吹き荒れる。先行シングルにもなった「Prison of Flesh」や「Oblivion」を聴けば、彼らが前作以上の絶望感とスケール感を描こうとしているのが痛いほど伝わってくるはずだ。シンセサイザーとバンドサウンドの同期は極限まで研ぎ澄まされており、もはや一つの巨大なオーケストラ集団を聴いているような錯覚すら覚える。

ただ、アルバムを中盤まで聴き進めると、正直少し耳が疲れてくるってのも否めない。「In Darkness」から「Unbreakable」、そして「Lionheart」へと続く中盤の流れは、どれも楽曲単体で見れば凄まじいクオリティなんだけれど、常にフルテンションのクライマックスを見せられているような感覚に陥る。

あまりにも壮大にアレンジメントを重ねすぎた結果、本来の主役であるはずのギターのリフや、ドラムの生々しいグルーヴがオーケストラの奥に引っ込んでしまっているように感じる瞬間があるんだよね。
現代のデジタル・レコーディングと高度なミックス技術が生み出した「過飽和の美学」とも言えるけれど、時折あの泥臭くてアンプの焦げる匂いがするような、昔ながらのデスメタルの質感が恋しくなったりもする。ジャンル全体がこのシンフォニック路線を追従している中で、彼ら自身もこの巨大なサウンドの呪縛から逃れられなくなっているんじゃないかと、ふと思ってしまう瞬間がある。

それでも、本作にはこれまでの彼ら、ひいてはこのジャンルの他のバンドにはない、ヒリヒリするような生々しい感情の吐露がある。特に印象的なのが中盤に配置された「Glenwood」だ。
Will Ramosが長年疎遠だった父親との関係や、失われた時間への悔恨を赤裸々に歌ったこの曲は、アルバムの中でひときわ異質な人間臭さを放っている。
世界が滅びゆくような壮絶なサウンドスケープの中で、彼が育った通りの名前を冠し、一人の人間の個人的で痛切な後悔が叫ばれる。この圧倒的なスケールと極小のパーソナルな感情のコントラストこそが、いまのLorna Shoreが単なる「激しいだけのバンド」にとどまらない最大の理由なんだと思う。

※下に貼ったGrenwoodの日本公式PVをぜひ最後まで視聴してほしい。
PVの最後に長年疎遠だった父親に会いに行き過去を清算する対談が収録されています。

ボーカリストとしてのWill Ramosの力量は、もはや人間の限界を超えているんじゃないかと本気で錯覚するレベルだ。豚の断末魔のようなピッグスクイールから、地の底から響くようなディープ・グロウル、そして切り裂くようなハイピッチ・スクリームまで、彼の声はもはや一つの「凶器」として完成されている。「Death Can Take Me」やラストの10分近い大曲「Forevermore」での狂気に満ちたパフォーマンスを聴けば、彼が現在のメタルシーンの頂点に立つ理由が嫌でも理解できる気がする。

圧倒的なまでの音の壁と、緻密に計算されたシンフォニックなアレンジ。それが全編にわたって続くため、アルバム一枚を通しで聴くにはかなりの体力を要求される。
決して万人に勧められるような軽さはないし、金太郎飴のように似たような展開が続くというファンの声が出るのも頷ける。それでも、彼らが自分たちの信じる極限のサウンドを一切の妥協なく叩きつけたことは紛れもない事実だ。デスコアというジャンルの頂点に立ちながらも、さらにその先にある漆黒の深淵を覗き込もうとする異常なまでの熱量。それだけでも、この大作と正面から向き合う価値は十分にあるはずだ。
この作品の推しポイント
  • SF映画の終末世界を思わせる、極限まで過剰なシンフォニック・アレンジ
  • 疎遠だった父への悔恨を赤裸々に叫ぶ「Glenwood」の人間臭い感情
  • 人間の声帯の限界を突破し続ける、Will Ramosの怪物的なボーカル
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うぃる

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